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歯の治療はどうして何回も通院が必要か? - vol.69 -

歯科治療は通院回数が多く煩わしいと思われる方も多いでしょう。
私達医療者もでるだけ早く終わらせたいと思っていますが、医科とは違い投薬だけで治る治療がほとんどありません。多くの治療は歯科医師自身が直接加療しなければならず、歯を削ったり・詰めたり・歯型を採ったり・被せたり・外科的な処置をしたりと手間のかかる処置が非常に多い分野です。

またそれに加えて質の良い治療を受けて頂くにはさらにそれなりの手順を踏まなければなりません。
一つの処置が完了して大丈夫であればまた次の処置に…といった具合にひとつひとつの処置を確実に行い、積み重ねていかなければならないことが多いのです。

質が問われるほど1回の治療時間と治療回数を要します。





時間が掛かる具体的な理由は…


口腔内環境はどうでしょうか?
口腔内には多くの細菌が存在します。むし歯や歯周病の原因菌が優位に働いている環境では良い治療を提供することが困難なため、治療前に口腔内環境の見直しが必要になる場合が多くあります。
口腔内環境の見直しの主な内容は、食事指導と歯磨き指導になります。


原因が複雑
口の中の疾患はとても多くの原因が複雑に絡み合っている場合が多くあります。その原因を先ず明確にすることが大切で、様々な原因が混在している場合は治療の組み立てがとても重要になります。


歯を支えている骨や歯肉はどうでしょうか?
歯の治療には歯を支えている骨や歯肉の状態がとても大切になります。歯の周りの環境がその歯の寿命と大きく関連するため、周囲の環境にも目を向けなければなりません。


すぐに症状が良くなるものばかりではありません
治療を行なったらすぐに症状が改善すればよいのですが、長時間悪い状態が続いていた場合などは慢性炎症を引きずっていることが多いため急速に回復することはありません。
適切な処置と衛生的な環境になって始めて治癒するため時間が掛かることが多いのです。


治療対象物が小さく 細かな処置が必要
治療の対象物が小さく、とても細かな繊細な処置が求められるため、必要以上に時間が掛かることが多くあります。
質を落とさず確実に行なうには手間暇が掛かってしまいます。


経過観察は大事
骨に影響が出ていたり、外科処置が絡んだ処置をしたり、長年の顎の歪みを治療したりしている場合などは治療も大事ですが経過観察がとても大切になります。一つの処置の経過が良好であれば次の段階に進めたり、一つの処置が落ち着いてから他の部位の処置に移る場合などもありますので、経過をみながらの処置が多いため期間が掛かります。




治療例を挙げると…


「普通にしていれば痛みはないのですが、冷たいものを口に含むと歯がしみて、むし歯のような痛みがあります。」と患者さんが来院されました。
診査をすると小さなむし歯が確認でき、歯肉に炎症が認められます。

このような状態の患者さんが来院されたら、通常ならすぐに患者さんが気にされているむし歯治療をするでしょう。


しかし私ならこのような場合、治療は後回しにします。もちろん辛い痛みがある場合には応急処置を行いますが、急ぎの必要性がない場合の治療は、口腔内環境の改善に重きを置き、むし歯や歯肉炎の原因を先ず一緒に見直します。そしてその原因となるものを排除、もしくは見直し、口腔内環境が整ってから処置することを勧めます。

具体的には先ず歯肉の炎症や腫れは歯磨きや食生活の見直しが必要になるでしょう。歯肉に炎症がある状態でしっかりとした治療はまず提供できません。たとえ強行突破で治療を行っても原因となっている環境改善を無視して処置を終えれば、近いうちにむし歯の再発する傾向は格段に上がります。
原因を取り除かないで処置を行った場合は、また同じことの繰り返しになる可能性が高くなりますから望ましい治療法ではありません。

むし歯を治すことも大切なのですが、むし歯になった原因を探り・見つめ直し、そして今後むし歯にしないような対策を考えた歯科治療を求めるとどうしても時間が掛かってしまうのです。

ここでの具体例はむし歯と歯肉の1例を話題にしましたが、口の中の疾患は様々ですので、手法も様々です。



適切な歯科治療を提供するには時間が掛かります。ご理解と協力そしてしっかり治したいと強い気持ちがないと成り立ちません。