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歯周病 Part 4「歯周ポケット内を磨く」について - vol.50 -

「歯周病菌は歯周ポケット内で繁殖するため、極細毛の歯ブラシで、歯周ポケットに押し込むように入れて、振動させながら磨いてください。」
「磨いていて痛みがあっても毛先が歯周ポケットに届いている証拠ですから、大丈夫ですそのまま続けてください。」

どこかで耳にしたことはありませんか?

私はこの歯周ポケット内を意識的に磨く行為が良い磨き方とは思いません。むしろ反対派です。



歯周病予防・治療を行なっている方の多くは、歯磨きの大切さは身に染みてわかっていることでしょう。歯周病の程度にもよりますが、最初から歯周ポケット内を意識し過ぎた歯磨き方法はとても危険を伴います。
それは、炎症を起こし熟れた歯肉は非常に弱く、ましてや歯周ポケット内のデリケートな組織は尚更です。そのような部位に先の鋭いブラシを突っ込んで磨いたらどうでしょう?


歯周ポケット内の細菌を除去しようと磨くと、歯肉を傷つけるばかりでなく、歯周ポケットの底に汚れを押し込むことはあっても、汚れがきれいにとれるとはとても考えられません。極細毛のブラシで強固に付着した歯周ポケット内の細菌群を簡単に除去できるほど単純な話ではありません。そして毛先がどこまで入り込んで磨いているか確認ができず、勘や想像を頼りにブラッシングすることはあまりに不適切で危険だとは思いませんか?


そして歯肉が痛くなるような歯の磨き方は適切ではありません。歯肉を痛めるだけでプラスになることはありません。痛みを我慢して歯磨きを続けていれば、擦過傷を起こしその後は必要以上に歯肉退縮を起こします。

歯肉は様々な線維群が集まり歯肉の形態が保たれていますが、炎症がある場合はこの線維群が断絶したり、融解している状態で腫脹しています。間違った歯磨きをするとこの線維群をさらに破壊するばかりか、修復しようとする働き(治癒力)までも妨げることになり、歯肉をただ痛みつけるだけの行為になってしまいます。
歯磨きで歯肉が痛くなるような磨き方は不適切です。


どのような歯の磨き方が適切か
プラークは歯の表面に付着する習性をもっています。そのためまずは表面に付着したプラーク除去が基本になります。歯の表面に付着したプラークを徹底的に常に歯磨きで除去できるようになると、歯肉の炎症が軽減し歯肉線維群が改善し始め歯肉が締まってきます。そして歯周ポケット内の細菌群が顕著に減少し、歯周ポケットに変化が起こります。

歯肉が締まり始めると歯周ポケットが浅くなり始めます。病状によってさまざまですが、歯周ポケットが正常範囲に回復する方もいらっしゃいます。もちろん病状が進んでいる方は、歯肉の炎症がある程度改善するのを待って、その後の処置(スケーリング・ルートプレーニング・外科処置)を行っても良好な回復が期待できるようであれば、私たち医療者が積極的に歯周ポケット内の処置を行うことで回復を期待します。

そもそもプラークはまず歯肉縁上の歯の表面に付着します。(歯根が露出している場合は歯根面にも付着します)プラークが停滞し続け、歯肉の炎症が慢性化し、歯周ポケット内の健康な線維付着が破壊され、その後剥離していくことで歯周ポケットが徐々に深くなります。その結果歯周ポケット内が細菌群の温床になるわけですが、もともと歯周ポケット内は、血液中の白血球などに細菌と戦う免疫成分が含まれ、自己防衛システムが働き常に健康に維持できるシステムになっています。

そのため歯周ポケット内にあえて歯ブラシの毛先を押し込んで磨く必要がないのです。


歯周ポケットは常に自己管理する部位ではなく、生体の免疫作用に頼る部位なのです。
そのため歯肉縁上(歯周ポケット上)に付着しているプラークを除去するのに専念してもらい、歯周ポケット内のことは専門家にお任せというのが適切かと思います。

歯の表面に付着したプラークに焦点を置き、確実に狙ってプラークが除去できるようになれば、歯肉を痛めることはまずありません。歯肉を痛めつけながら治すのではなく、歯肉の回復を最大限引き出しながらの歯磨き方法が大切なのです。


歯周ポケット内を極細毛の歯ブラシで意識して磨く歯磨き法は、一見理想的と思われるでしょうが、歯肉にとってはありがた迷惑な行為なのです。



日常臨床でよく体験する歯肉の変化
歯肉縁上の歯磨きによって歯肉が締まると、歯肉の腫れが治まり、出血も治まってきます。そして何より歯肉に張りが出てきます。歯周病治療でよく使用するプローブが、最初は何の抵抗もなく歯周ポケットに入っていたのに歯肉の炎症の改善に伴いポケット内に入りにくくなる現象が起こります。これはまさに炎症が改善されたことによる歯肉線維群の改善の威力なのです。

もちろんその後のスケーリング・ルートプレーニング処置でも同じことをよく感じます。
このことがしっかり歯肉縁上の見えるプラークを除去するだけで歯肉線維が修復している証なのです。
これが生体の力 治癒力なのです。